仮想私事の原理式

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空手って何だろう?‐DVD「極める!ナイファンチ」

 DVDを見たのはだいぶ前だけど、ようやく感想。
 空手の源流研究では個人的に一番納得しやすい新垣清氏による初の型DVD。新垣清氏の著書を読んでいた人達の中には動画を待ち望んでいた人が多いのではないかと思う。新垣氏の著書で説明される動きは、合気や柔術を真似たものでもなく、気やゼロの力などの不思議力で説明をするものでもなく、あくまで体の使い方で説明していて好感が持てるのだが、誇張表現が多い・動き方がイマイチ想像できない・物理的な説明が適当など、モヤモヤする部分が多かったので。
 結論から言うと、DVDを見た感想としては、失望部分が大きかった。「空手って何だろう?」と改めて考える次第。

広背筋を使った突きと、ナイファンチ分解に納得がいかない

 まず良かったところ。
 新垣氏の動きは、著書の説明から想像した動きのとおりで「なるほど、こうなるのか」と納得できた。さすがに「目にも止まらない」「音速」とは行かないが、油断していると動作を見逃してしまうほど速い。動きがコンパクトで無駄がない。
 あと、些細な部分かもしれないが、突きを当てた後に「落とす」説明。


 次に納得いかなかったところ。
 まず「広背筋を使った突き」
 肘を前方身体正中に「引く」動きで広背筋を使うというが、広背筋が働くのは肘が身体後方に向けて行く場合、肩を中心に後方に回転するときに使う筋肉のはずだ。自分でやってみても、広背筋の力みは感じられない(やり方が悪いのかもしれないけど)。腕を正中に寄せた後に腕を伸ばす段階であれば、広背筋を使う部分はあると思う。新垣氏は「ピッチャーの投球の動きの逆」と説明していたが、あれならば腕を後ろに戻しているので当然広背筋は使えるだろう。しかし、むしろ投球の動きとの共通点がなければいけないのではないだろうか。後半のナイファンチ分解でも「広背筋の動き」を強調していたが、これらも自分では体感できない部分が多い。
 強いて挙げるなら、突きを当てて「落とす」時が広背筋の働きどころだと思う。


 もう一つ大きな不満が「ナイファンチの分解」
 第1動作の貫手(のど輪)で相手の突きをさばきつつ攻撃→第2動作の猿臂の流れは分かる。しかし第3動作で「相手の頭を懐に引き付けコントロール下に置いて」からは、全部「コントロール下」による一方的なコンボ攻撃だ。よく「敵を据え物にしてから打て」なんて言うけど、大事なの据え物にする部分であって、据え物にしてからの攻撃じゃないでしょ?
 おそらく新垣氏は、これを本当にナイファンチの分解とは考えていないだろうと思う。ビデオ中でも「初級者向け」との旨を話しているから、初級者に向けた分解というつもりで収録したのかもしれない。しかし、こういう「本物を隠す」思考によって、空手は源流を失伝させ、間違った解釈を普及させてきたのではなかったのか。これならば、型分解は収録すべきではなかった。

型って何? 空手って何?

 空手の型は「技のカタログ」ではなく「戦闘思想」「戦い方」の例示だと思う。ナイファンチであれば、「相手の攻撃に合わせて相手の内に入っての攻防」を示唆している。正統唐手成徳会では、ナイファンチは「後ろ手受け、前手攻め」と示唆しているとおっしゃっているし、少林流松村正統空手道の山口正舟氏は「型は思想であり組手」「ナイファンチは一歩の攻防」とおっしゃっている。
 ここで気になるのが「空手の型のほとんどは、空手家が作ったものではなく、中国武術から伝わったもの」ということだ。もちろん、空手が中国武術とは異なることは見れば分かる。きっと、中国武術としての重要な部分は伝わらず、型だけが残ったのだろう。その型に琉球の武術家達が、琉球の手や日本剣術の理論を使って意味を与えた出来上がっていったのが空手なんだろう。今気づいたが、この状況は、琉球から日本本土に空手が伝えられた時の状況にそっくりだ。「型」だけが伝り、その解釈で作り上げられる武術というのが、空手の真の姿なのかもしれない(笑) いや、これは割と真面目な話。その解釈に至るための考え方こそ、「空手の理念」なんだろう。それが知りたい。

 ナイファンチにある「中段受け→中下段受け」の動きは、本部朝基は「相手攻撃の払い(突き)落とし+裏拳(揚げ突き)」の使用例を示しているし、山口正舟氏は「松村の手」として「右外受け→続く攻撃を右内受け→そのまま左外受けで受け直しながら、右手で中段鉄槌(突き)」を示している。どちらも非常に使える動きだ。
 また、ナイファンチの動作ラストのナイファンチ突き。「古伝では後ろ手が開手だった」というところは新垣氏と同じだが、金城裕氏によれば「前手突き、後ろ手受け」を示しているという。新垣氏の「開手による頭部への掌底」より余程現実的だ(何故に掌底?)。新垣氏には、改めてナイファンチ分解を出してほしい。