仮想私事の原理式

この世はワタクシゴトのからみ合い

借りぐらしのアリエッティ


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 ナウシカラピュタを思い起こさせる世界で、観ていて面白かった。
 志田未来アリエッティうまかったし。なにより父ちゃんカッコイイ。
 音楽や挿入歌も良かった。人によるだろうけど、僕としては綺麗だけどテンションの上がる曲だった。ハープっていいなぁ。

 それだけに、ストーリーがあっさりすぎて物足りない。もっと続きを観たかった。

(以降、ネタバレあるかも)

人間の世界と地続きの、借りぐらしの世界

 お父さん(ポッド)、マジかっこいい。アリエッティを連れた初めての「借り」がポッドの見せ場なわけだけど、いちいちカッコイイ。騒ぎ立てずに黙々と障害物(棚やら机やら)を踏破していく姿は、ベテランの仕事人のカッコ良さがある。ナウシカラピュタのキャラを思い出してしまった。そして物静かで威厳がありながらも、奥さんや娘にも理解があり優しい。完全な理想の父親像。
 個人的には、水滴の表現が好き。アリエッティの家族がお茶を飲むシーンがいくつかあるけど、ポットからコップへお茶を注ぐときには、始めにポットの注ぎ口に大きな水滴ができて、それがドロリとコップに移る。うちらのポットのようにチョロチョロとかジャーとかではなく、ドロリ、ポトリ。それでコップ一杯分くらい。確かにあのサイズのポットだったら、水の粘性やら表面張力の影響が大きいだろう。水滴が口の周りについて窒息死なんてこともあるんじゃないだろうかと心配してしまう。この表現で、アリエッティたちが同じ物理法則の同じ世界に住んでいるという感覚を持てた。この辺は原作設定なのかジブリ設定なのか知らないけど、感心してしまった。
 ただ、「ガリバー旅行記」を読んで以来、小人の視点から巨人を見ると、毛穴やら肌の角質やらがズームアップされて、きっとデコボコで汚い肌に見えるんだろうなぁと思ってしまう。アリエッティから見た人間って、きっと相当にグロテスクなんじゃなかろうか。

借り? 返すの? 狩り?

 ツッコミとしては「借りぐらしって言うけど、それ返さないでしょ?」と言いたくなる。実際に返してないんだけど、「借りぐらし」にとって人間世界は「自然」と変わらないんだと思えば理解できなくもない。アリエッティが父に「『借り』って楽しいね」という場面があるけど、あれはあからさまに「狩り」と掛けてるよねぇ? 「狩り」は結局のところ、山や海の恵みを少し分け与えてもらっているもの。決して「自分達のモノ」ではない。自分のモノは身一つで、他は借り物。まぁ、食べ物はお腹に入ってしまうと返すのは難しいんだけど、危険が訪れるたびに住む場所を転々とする生活を考えれば、「借りぐらし」という部分も納得できるような気がする。

翔の怖さ

 この映画の一番恐ろしいキャラはハルさんなわけだが、翔も結構怖い。
 翔は心臓病を抱えて手術を待つ身で、少なからず自分の人生に絶望している。そこに自分よりも弱くて、しかし懸命に生きようとしている存在がいる。それを見たとき、絶望している少年は何を思うか。たとえば夢や希望を持てていない自分が、それを持っている人間を見たときの感情にすごく似ているんじゃないかと思う。発奮や羨望もあるが、嫉妬や憎悪もある。自分はこんな状態なのに…と。
「君たちは滅びゆく種族なんだよ」
といった時の翔の顔は、弱いものイジメの快楽を感じている顔をしている。怖いのは、翔には実際にアリエッティたちを絶滅させられる力があるということ。幸い、翔は基本的に優しい子設定だったが、絶望ついでに道連れにしていく可能性だって十分にあったと思う。

ハルの怖さ

 ハルの怖さは、借りぐらしを変わったネズミくらいにしか見ていないというところか。話が通じる相手だとは思っていない。捕まえて、ビンに入れてラップして、空気穴だけは開けとくところなんてリアルだった。そのうち、ドールハウスに入れて飼うつもりなんかなぁ。いや、そんな先のことまで考えてないか…。多分、奥様に見せて勝ち誇ることくらいか? まぁ、怪物だよね、ある種の。
 でも、このハルの行動は、そう非難もできないんだよね。自分だったら?と思うと。借りぐらしに感情移入できてるから、ハルに対して批判できるだけで。たとえば、ハルをイマドキの高校生とかに置き換えても、全然違和感ない。むしろ、もっと残酷な攻めができそう。いや、誰に置き換えたって、それなりの残酷性を発揮できると思う。そういう狂気って、多分、だれにでもあるんだよね。狂気と思われないだけで。


 結局、アリエッティ一家は別の家を求めて旅立っていく。まぁ、ハルがいる限り仕方ないようにも思うけど、借りぐらしも新たな方向性を求めてもいいんじゃないの?と思わずにはいられない。絶滅の危機っていうのは、確かなんだろうし。
 あと、いくら母救出を一緒にしたとはいえ、アリエッティと翔がちょっとラブリーな関係になりすぎな気がする。もう少し紆余曲折があれば分かるんだけど。その辺だけがちょっと不満。
 全体的には、近年のジブリの中では好きな映画でした。